フェラーリお笑い文学の清水草一氏が、リンドバーグ特別推奨のDVDを観賞、 そのレビューエッセイをお届けします。 プロフィール
第4回
Clarkson Thriller

01  このDVDを、まったく予備知識ナシ+中学生程度の英語ヒヤリング能力で見始めた私。
 
「この腹の出たオヤジは誰?」
 どうやらこのDVDのメインキャスターらしい。日本で言や、三本和彦先生とドリキン土屋圭市を足して2で割ったみたいな感じかね? メインもなにも、他にはほとんど誰も出てこないんだけど。
 実際、ルックスは三本系なんだけど、ガヤルドや430スクーデリアをドリフトさせまくります。ドリキン三本です。 序盤はグラントゥーリズモとかアルファ8Cとかのテストだったりして。あー、イギリスのベストモータリングなのか、でもバトルがねーなと思いつつ、インプレトークがほとんど理解できないので早送りすると、なぜか少しポンコツのポルシェ944ターボが登場。ソイツに巨大なロケット花火の発射筒を取り付けて、イギリスのオービス(のダミー)を狙ってバンバン撃ち始めた! なんじゃこりゃ〜! と思ったら、今度は道路パトロールカーのダミー(パジェロ)を狙ってバンバン命中させる。こんなことしていいのか。教育上悪すぎる……。しまいにゃ意味もなく二階建てバスを爆破、パジェロの上には7トンのディーゼルエンジンを落っことしてペッチャンコにし、レクサスはマシンガンで撃ちまくって炎上! うーん、俺はパッソ・セッテを炎上させたい。
 ここまで見てようやく分かり始めました。このDVDは、男性ホルモンドバドバの、スピードと破壊のカタルシス作品なんね! 気に食わない野郎は爆破だ! とか、パガーニ・ゾンダでオープンカフェに乗りつけて、鬼のように注目されてうれしいぞ! とか。ドリキン三本、オープンカフェで、「俺のゾンダだよ〜、俺のゾンダだよ〜」とわめきながら座ってる。お茶目な三本先生!
 終盤、R35GT−Rが出てきて、三本ドリキンのインプレで、「このクルマはスピードとラップタイムは出る、しかしスリルは皆無だ!」と断定されたので(私の自主制作DVD『絶叫!! GT−Rvsフェラーリ』にちょっと似た結論)、きっと爆破されるんだろうと思ったら、借り物なのか爆破は免れました。どうやら「ポルシェ911ターボより速いのに値段がぜんぜん安い」ことで減刑されたようです。日本人としてうれしかったです。
 このDVD、イギリスBBCのおバカ系人気クルマ番組『トップギアー』の、DVD過激版ということだったんね。You tubeで見てみたら、猛烈面白くて病みつきになりました。ドリキン三本最高!

Clarkson THRILLER
DVD/英語/78分/PAL 税込価格 5,880円 (本体価格 5,600円)

第3回
八武崎名人直伝
プロフェッショナル板金テクニックVol.1〜2
01 俺は小さい頃、大工さんが家を建てるのを見てるのが大好きで。小6の頃かなぁ、隣の敷地に家建てるのを、ヒマさえあえればずーっと見てたんだけど、中に名人の児玉さんっていう大工がいて、その人は手際がすごく鮮やかで、んで時折「うまい!」「うまいなあ」って自画自賛しながら作ってたんよ。それを見てるのが楽しくて楽しくて。
このDVDは、八武崎(やぶさき)さんっていう、板金の名人の仕事ぶりをただひたすら追いかけたという、ウルトラストレート剛速球な作品なんよ。それはもう、一切の演出も効果もCGもなんもなく、ただひたすら八武崎さんの仕事ぶりを追っているだけという。
その仕事ぶりが、どこかあの大工の児玉さんにだぶっちまって……。「うまくねえな」「ちきしょう、うまくいった」とか独り言を言うところなんかも。とにかくいい味なんよ八武崎さん。いったい何歳なんだろ八武崎さん。そういう個人的な紹介とかも一切なく、ヘタすりゃ顔もちゃんと映してなく(映ってるのはほとんど手元のみ)、ただひたすら板金仕事を追ってるだけなの。それが、涙が出るほどいい味なんよ……。
八武崎さんが使い分ける道具の数々がまたいい味でさぁ。48年使ってるハンマーとか、亜鉛のハンマーとか銅のハンマーとか、とにかく使い込まれたいろんなシブすぎる道具が出てきて、それ見てるだけで「道具に感動!」なのね。名人もすごいけど、道具もすごいなあ、なんて。
02 考えてみると道具って、人間を人間たらしめるかなり根本のところにあるものだよね。人間が動物から人間になったのって、道具を使い始めたおかげでしょ。たとえばさ、縄文人がどんぐりを食べるために作った石器やアク抜き装置だって、今俺が作ろうと思ったらとてもムリ。でも人間はそれをやって、人間になったわけだよね。そっからどんどんシステムを高度化して、ここまで来たわけだよね。
自動車のボディパネルは、金型とプレス器があれば一瞬でできちゃうけど、それを人間が自分の手で作ったり直したりしようと思ったら、ここまで名人の技が必要なんだ! ってことに慄然とさせられるんよ。ああ、人間はこういうところを通って、現在の社会を構築したんだなぁ、人間ってすごいなぁって。
   この作品は、「若き板金マン、旧車愛好家に捧ぐ」ってことだけど、そういう限定した層に限らず、すべての人を感動させてくれる。これは昔NHKでやってた『手仕事にっぽん』の世界だ! 八武崎さんが鉄と対話し、鉄をわが友、わが家族としている姿に打たれました。八武崎さん最高です。
八武崎名人直伝 プロフェッショナル板金テクニック Vol.1 DVD
フロントフェンダー修理編
DVD/95分/日本語/税込価格 3,150円 (本体価格 3,000円)


八武崎名人直伝 プロフェッショナル板金テクニック Vol.2 DVD
トヨタスポーツ800再生編
DVD/60分/日本語/税込価格 3,150円 (本体価格 3,000円)

第2回
Special Groupe B

 うおおおお、なんじゃこりゃああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
「このところリンドバーグで大変よく売れているフランスのDVDです」
  そう言われて渡されたのが、この『スペシャル グループB』なる作品。フランスのアマチュアラリーイベントで、往年のグループBマシンたちがブイブイ走っているのを集めたものだそうだ。
  で、見てみると驚愕の嵐。まず、こんなにもたくさんのグループBマシンが、公道を閉鎖したコースで、アマチュアたちの手で本気走りしているという事実に腰が抜けた。
  作品の作りも凄い。とにかく、ほとんどなんも説明がない! フランス語でなんか言われてもどーせわからんのでいいんだが、全編、とにかくひたすらグループBマシンが走ってるだけ。ラリー形式だからバトルもなく、全部単独走行。この、採れたてのダイコンやナスを、切りもせず焼きもせず、ただ皿の上に並べただけみたいな編集方針に土下座したくなりました!
  確かにグループBファンは、グループBマシンが見られればそれでいいんだろうな。余計なことすんな、俺はマシンの走りや細部を見たいんだ、ナレーションなんぞいらん、俺の方が詳しいし! キャンギャルなんかもってのほか、ならAV見るわい! という男らしい割り切り、スバラシイです。
ワタクシも自主制作でDVDを出しておりますが、私のはトークだらけで、つまりこれとは逆の作りです。マニア向け作品は、素材をゴロンか、素材をこねくり回すか、そのどっちかなんだね……。
正直言うと不肖MJ、グループBマシンには特別な思い入れがないので、うおおおランチアデルタS4やアウディクワトロだぁ! と興奮することはないのですが、これがもしJTCCなら燃えるだろうなあ。
「うおおおお、関谷のコロナとBMWのソーパーのバトル、クロウト好みだぜえええええええっ!」
  不肖ワタクシ、かつてJTCCファンでして、ずいぶんサーキットにも行ったものです。もし、94年から98年にかけてのJTCC総集編DVDがあったら、ナレーションなんぞいらんです。なんの説明もなくてけっこうです。ただひたすらレースの模様を映してくれればそれでいいっす! あとはこっちでいろいろ思い出したりするから。
  これを御覧になる皆様は、そのような感じでこのDVDを見て興奮なさっているのでありましょう。マニアは強し。
Special Groupe B (海外向けのDVDプレーヤーが必要)
DVD/仏・伊語/120分/PAL 税込価格 5,880円 (本体価格 5,600円)

第1回
MASTERS OF HAUTE HORLOGERIE U

 まさに未知との遭遇、そして感動だったっス……。『マスター オブ オートオロロジー』。直訳すると「高級腕時計職人たちU」ですか。いきなり発音からしてわかんなかったんだけど。なんで英語のあとにフランス語がつくの? と思ったら、オートオロロジーすなわち高級腕時計は、ほとんどすべてスイスのジュネーブ周辺で作られていて、そこはフランス語圏だからなんね。
実は不肖ワタクシ、最近機械式高級腕時計関連の仕事もさせていただいてて、具体的には某高級誌でバシュロン・コンスタンタン(クルマで言えばフェラーリかランボルギーニ)について著名人にインタビューして原稿を書くっつーことをやってて、5000万円とかの時計も目の当たりにしてたんだけど、肝心のその中身についてはサッパリ無知のまんま。なんせ一本も持っとりませんから。そんなカネあったらフェラーリ買うもん。
しかし取材させていただく著名人の皆様は、当然私がそれをすべて理解しているものとして話してくれる。私はすべてわかったような顔をして馬耳東風――だったのです。それがこのDVDのおかげで、ついに理解できました!
なにがわかんなかったかって、機械式腕時計の高級機構?について。たとえばレトログラード、パーペチュアルカレンダー、ジャンピングセコンド、パワーリザーブインジケーター、ツゥールビヨンといった言葉たちだ。いやー、そーだったのか!
それはいったいどういうものなのか。知らない人はこの作品を見てください。全部わかります。それよりこのDVDは、強烈にステキな空気感を醸し出しているんよ。そのことにより深い感銘を受けました。
それは、暗く重々しい、古い古い修道院のような厳粛な世界……。そこはひたすら清潔無比、整理整頓律儀一筋で、外で暴走族が「パラパパー」とかクラクションを鳴らすことは決してなく、ひたすら静寂が支配している。そんな環境で、熟練の時計職人たちが、ひたすら複雑怪奇な高級腕時計を組み立てている。
その時計職人たちの顔が、みんなオタク! オタク顔なんよ! 中にはオタクを超越したオヤジやジジイもいたけど、若いヤツはオタク! オタ顔なの! んでオタ顔で笑って「この世界に終わりはありません」とか言って、鼻毛より小さい部品を組み立てている。鬼気迫る世界! すげえ! 機械式高級時計がちょっと欲しくなった! ああいう人たちが組み立ててる時計が欲しい! そんな風に思いました。ムリだけど。


Masters of Haute Horlogerie II
DVD/日本語・英語・仏語他/45分/NSTC.....税込価格 6,300円 (本体価格 6,000円)



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