Motorcycle-engined Racing Cars タイトルのとおり、オートバイ用のエンジンを積んだレーシングカーの本である。
 この、けっこう狂暴なマシンの活躍の舞台は、欧州で人気のある公道レース。最高峰は各国のヒルクライム選手権あたりだろうか。書名に“How-to-Build”と冠するように、どうやって造るかに重点を置き、詳しく書かれている。
 オートバイ用エンジンにもいろんな形式があるが、ここでは並列4気筒を推奨している。エンジンのリストには、各社の600ccスーパースポーツや、1000〜1400ccのスポーツモデルが載っている。レーシングサイドカー(ニーラー)のエンジンが、2スト/4ストを問わず、並列4気筒が主流だったのと同じく、スペースユーティリティに優れているからだろう。

 だが、その“オートバイ用”エンジン本体については、実はあまり詳しく書かれていない。レーシングカーのシャシーに積むために、オイルパンの底部をフラットに仕上げる方法、排気系のレイアウト、変速機からの出力の取り出しをどうするかなどは詳しく書いてあるが、それらは、チューニングというよりも、クルマの車体に積むための方法である。まあ、エンジンを造る本ではなく、レーシングカーを造る本なのだから、車体に重点を置いているのは当然である。
 そんな内容ではあるが、オートバイにしか興味のない者には楽しめないかというと、全然そんなことはない。チューブラー・スペースフレームとアルミ・ハニカムシャシーなどのページは、そのままオートバイのフレームを理解するのに役立つし、サスペンションデザインの章(この本で最も多くのページを割き、詳述されている)は、車体のディメンションを決定するプロセスについて、学ぶところが多い。
 理論だけに留まらず、実際にどんな材料と道具を使って制作するかのガイダンス(というよりはレポートに近い)が、この本の後半部分を占めており、前半で理論を学び、後半で実戦的ノウハウを得れば、あとはヤル気と環境さえあれば、1台の“オートバイ用のエンジンを積んだレーシングカー”を造り、走らせ、セッティングをしていくのも難しくなさそうだ。
 どこで走らせ、何をする…と問われると返答に窮するが、趣味のレーシングカー造りに対する敷居をうんと低くしてくれる入門書としておすすめしたい。

How to Build Motorcycle-engined Racing Cars
ソフトカバー/W208×H250/カラー/英語/128p
税込価格 5,880円 (本体価格 5,600円)