Vespa Tecnica 何というタイミング! 危ない危ない。今の私にこの本は、火に油を注ぐようなもの。何たって、これ、クラシカルなベスパのディテイルを愛でる本だから。
 つい先日、知り合いがベスパに乗りはじめた。知らぬ間にこっそり手に入れ、いきなり夜の街で撮った写真を見せつけてくれた。それまでは“何となく気になる存在”程度でしかなかったのに、その写真を見た途端に、あ〜オレもこいつで(できれば後ろに別嬪さんを乗っけて)走りたい…って気になった。





 で、ベスパの本。古今東西いろんなのが出ている中で、こいつはかなり異色である。タイトルに1946/1955とあるのを見ればわかるように、1956/1964、1965/1976、1977/2002を合わせた4部作のひとつ。どの巻も、徹底して細部に迫った写真を中心に、メカニズム解説本では決して得られない、当時のイタリアならではのインダストリアルデザインを心ゆくまで鑑賞できる。
 写真の見せ方は、カタログ的と言えなくもないが、被写体は試作車や量産初期ロットの新車ではなく、かといって多数の新品パーツを投入したり全塗装したのではない、使い込まれ、磨き込まれた車両である。そこがいい。どんなオーナーが、どんな道を走らせたのか、そんなところに思いを馳せながら眺めることができる。
 整備マニュアルとしての実用的価値は、ほとんどどころか、まったくない。各モデルの諸元表や当時のカタログ(または技術説明資料)から転載した図版も多数収録されており、資料性は高いが、それを提供するのが目的でないことも、どう見ても明らかだ。
 ではいったい、この本はどういう読者を想定しているのか…。それはたぶん、私自身をはじめとする、ベスパの魅力をこれから理解していこう、あるいはさらに深めていこうとしている人たちではなかろうか。
 こういう本を出版するイタリアの文化、企画させるベスパの魅力、読もうとする世界中のベスパフリーク。そんなところにも思いは巡る。私が手にしたのは英語版であり、他にも各国語版が刊行されている。残念ながら日本語版はないけれど、文字なんか読めなくても大丈夫。読むのではなく眺める。その対象が写真なのか実車なのかが違うだけである。

Vespa Tecnica Vol.1 1946/1955
ハードカバー/W246×H308/カラー/英語/182p
税込価格 13,650円 (本体価格 13,000円)


Vespa Tecnica Vol.2 1956/1964
ハードカバー/W246×H308/カラー/英語/198p
税込価格 13,650円 (本体価格 13,000円)


Vespa Tecnica Vol.3 1965/1976
ハードカバー/W246×H308/カラー/英語/189p
税込価格 13,650円 (本体価格 13,000円)


Vespa Tecnica Vol.5 PX 1977/2002
ハードカバー/W246×H308/カラー/英語/182p
税込価格 13,650円 (本体価格 13,000円)