DAKAR パリダカという言葉をあまり聞かなくなってから、もう何年も経ったような気がするのであります。1979年にスタートしたフランスのパリからセネガルのダカールまで、約12000kmにもおよぶスペシャルステージを走るラリーはそのあまりにも壮大なスケールが話題を呼んで、あっと言う間に広く一般にまで浸透しました。1981年からFIMとFIAの公認レースとなり、各メーカーが威信をかけて取り組む勝つための手段が激化する一方で、アフリカならではの政治的背景からくる危険な状況も目立つようになり、文字通りの世界一過酷なラリーのひとつであったのです。当時、私は既にフリーライターとしてでいくつかのバイク雑誌に携わっていたのですが、時折編集部に顔を見せる日本人の”パリダカライダー”は、何故かいつも爽やかで、いい意味でとりつかれた目をした、とても健康的な印象がありました。

 そんなパリダカは1995年、スタート地点がパリからグラナダに変わったのであります。その後もスタート地点は毎年変わり、2002以降はパリからのスタートはありません。コースもアフリカ北西部の治安の悪化やテロの脅威から逃れるために毎年大きく変わり、2008年には開幕前日に大会中止が発表されるという不測の事態も起こりました。また日本における報道も年々希薄になり、創始者、サビーヌ氏が開いた”冒険の扉”は今後どうなってしまうの? と、関係者はもちろん、多くの熱烈なファンが心配を寄せたのでありました。
 その後、そんな多くの心配を払拭するかのごとく2009年の大会開催が発表されたのであります。場所は南米。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスとチリのバルポライソという所を結ぶ周回コース。SS合計約6000kmというこれまた壮大なスケールで大会はスタート! 例によって各メーカーがドラスティックなストーリーを展開しながらラリーは無事終了という、嬉しいニュースが流れてきたのであります。こうなるとその現場を見たい! と思うのは当然の心理。ところが、いかんせんアルゼンチンとチリなんて、ごく稀にテレビの特番等で見る事以外にはこれといった情報源もなく、果たして、あのパリダカはステージを移すことでどのように変わったのだろうか? という興味は強くなるばかり。そんな折、ふと手にしたのがこのオフィシャルブックであります。表紙を見ればそれがダカールラリーに関係したものであることは一目瞭然で、小さくあしらったアルゼンチンとチリの国旗がその”最新版”であることをアピールしているのであります。
 早速中を見ようと表紙をめくった瞬間から、私は大好きなコーヒーを一回も口に運ぶこともなく、あっと言う間に1時間以上の時が過ぎてしまったのであります。全てのページから伝わってくる南米ならではの大自然の美しさは当然でありますが、私が引き込まれたのはそこに登場する人々の目つき。ドライバー、ライダー、オフィシャル、現地人……と、その目のなんと清清しいことか! そう、ついぞ、かつてパリダカが元気だったころに挑戦していた日本人ライダー達 の顔を思い出してしまったのであります。大自然に果敢に立ち向かうマシンが次第に飲み込まれていく、そんな生々しい様子があまりにも美しく表現されていて、でもって気がつけば何だかこちらが癒されている……。そんな不思議なパワーを秘めた一冊。保存版としての価値も十分にあり!
Yamahen

「DAKAR 2009」
ARGENTINA-CHILE
ソフトカバー/W298×H236/カラー/英語/215p
税込価格 9,870円